「家族写真の秘密」
柴 理恵(東京都荒川区)
義父は、家族写真を撮影するのが好きである。ひさびさに家族が一同に集う日、食卓にご馳走が並び、「さあ、食べよう」と皆が席に着く頃になって、義父は三脚をセットし始める。タイミングとしては、明らかに遅い。
「お父さん、まだ?」
義父は、非難と諦念の交じる生温かい視線を一身に集めながらも、納得がいくまでカメラの角度とピントを調節する。ようやく準備が整い、タイマーのボタンを押したら、整列した皆のもとへ、急いで走るのである。
これまで、写真撮影で、義父はいろいろな失敗をしてきた。
タイマーを押してダッシュした瞬間、カーペットで脚を滑らせ、カメラが天井へ向いてしまった。ドアの下に三脚をセットしたため、カメラが邪魔で、入り口を自分が通り抜けられなかった。そもそも、三脚が異常に短い、などである。
先日、我が家で義父の誕生会を開いた。
義父はいつものようにフィルムカメラを抱えてやってきた。室内にカメラを向け、ベランダで三脚を立てはじめた義父に、私たちは、「前回みたいに滑らないように」、「自分が入ってくるスペースを考えて」など、あれこれ注意をした。
ようやく、セッティングが完了すると、義父は、既に一仕事やり遂げたあとのように満足げである。タイマーを押し、カメラの脇をうまくすり抜けた。大丈夫、今日は何事もなく撮影完了、と一同が安心したときだった。
「あっ、お義父さん、サンダル!」
義父は、ベランダ用のサンダルを履いたまま、居間に駆け込んでくるではないか。
サンダル履きの義父が、すまして私の横に並んだとき、カシャリとシャッターが下りた。
フローリングの床には、サンダルの靴跡が、フィルムには、家族一同の笑顔が残った。
そういえば、我が家の家族写真は、満面の笑顔ばかりである。それは、毎回、大真面目で予想を上まわる失敗をしてくれる、天然カメラマンのおかげなのである。
